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日銀の言い分


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 前回はかなり日銀について批判的に書きました。ただ「日銀が悪の根源」のような意見にも、違和感を感じるところがあります。なので、今回は少し日銀の立場に立って考えてみましょう。

 もう一度無担保コール翌日物の金利の動きをみてみましょう。



 私は前回のブログで、1999年1月の段階でまだ緩和余地があり、政府の方針転換から1年ほど遅れた対応だったことを批判しました。ただ同年2月まで、日銀はほぼゼロという水準まで金利を下げたことがありませんでしたから、1月の水準でも恐らくは十分低いと考えていたのだろうと思います。2月以降翌年7月まではほぼゼロ金利という状態になりましたが、これはまさに前代未聞の事態でした。ですから、当時の日銀としては、このこと自体が相当な異常事態であって、なるべく早急にやめるべきだと考えていたのではないかと思われます。

 当時の政府の対応も、中途半端だったと思います。財政政策で引っ張ってきたけれども今ひとつ効果が上がらないので、財政政策の代わりに金融政策に頼ろうという考えが強く、財政政策と金融政策のアクセルを同時に踏み込むという意識がなかったからです。

 その後、2001年3月から2006年3月までの5年間に量的緩和政策がとられました。国債などを日銀がどんどん買い進むことで民間にじゃぶじゃぶと資金を供給する政策です。この間に無担保コール翌日物の金利がほぼゼロの状態を続けているのは、先のグラフからもわかりますね。

 この結果として行き場のないお金があふれることになったのですが、これが企業への貸出に順調に使われているならば、問題はありません。ところがこのデフレ不況下では設備を拡大しようという企業はなかなか出現しませんし、お金を借りたい企業は経営的に信用できないところが多く、企業向けの貸出は伸び悩みました。実物経済の拡大にこのお金が使われないと、このお金は資産市場に伸びていく可能性があります。要するにバブル経済の再来です。実際には日本ではバブルは発生しませんでしたが、この点に対して、日銀はかなり神経質になっていたのではないかと思います。

 なお、国内ではバブルは発生しませんでしたが、国外ではバブルが発生しました。これが日本の金融緩和とも実は深い関わりがあったのです。日本円とユーロやドルとの金利差が拡大したことから、円キャリートレードと呼ばれる取引が広がったからです。

 円キャリートレードとは、1)金利の低い日本円で資金を集め、2)手に入れた日本円を売って、金利の高い米ドルやユーロに換えて運用するというものです。金利差が大きい分、利益が比較的簡単に出たわけです。欧米の国債などばかりでなく、株式、不動産関連にも資金は流れました。

 この取引では、調達した日本円を売り飛ばすことから円安に働く力を持ちました。ですので、この取引が拡大して行くにつれて、円安がどんどん進行していきました。円キャリートレードで資金を調達した側からすれば、円の金利が低いことに加えて、この円安によって元本自体も減っていくわけですから、笑いが止まらないくらいに儲かったわけです。

 日本では国内の需要はデフレ不況で伸び悩んでいましたから、円安によって輸出市場の拡大が期待できることになったのは干天の慈雨でもありました。それでこの状態を放置する方針が取られたわけです。しかし、この取引は欧米のバブル経済を支える元にもなったという側面もあったわけです。

 破裂したバブルの処理のために、現在欧米では日銀のレベルを遙かに超える量的緩和がなされていますが、だからといって日銀が欧米と同じレベルの量的緩和に踏み切って対抗して果たして大丈夫なのかという思いを、恐らく日銀は感じているのだろうと思います。量的緩和はバブル経済の元になりかねず、金融経済だけが肥大化して実物経済にお金が回らなければ、実質的には有害な政策になるからです。

 日銀に対しては、時にはアメリカや中国の意向を受けて動いているのではないかと思えてしまうこともありますが、恐らくは日銀は単に臆病すぎるのだろうと思います。打つ手が後手に回りがちで、しかも規模が小さいために効果が薄いということを繰り返してきましたから、Too Little, Too Late と揶揄されるのも仕方がないかなとも思います。

 では、なりふり構わぬ FRB の量的緩和が本当によいのかといえば、そこには不安を覚える部分もあるのです。確かにこれまでバブル破裂の後遺症を緩和するのには、FRB の量的緩和が極めて高い効果を発揮してきたことは認めますが、この政策が最終的にも吉となるかといえば、実際には大破局につながる可能性が高いのではないかとも思います。(この話もそのうち書きたいと思います。)

 ですから、やはり国民目線に立って、金融と財政をパッケージにして、金融緩和が生み出した資金が実物経済に確実に流れる仕組みを作らないといけません。この点で、財政と金融が本当に密接に協力しないとやっぱりまずいのではないかなと思います。ただ、経済が好調になれば株価や地価も上昇していくはずですが、これがおとなしいレベルを超えて暴走する可能性はやはりはらんでおり、そういう可能性について日銀が心配するのもわかる気はします。

 というわけで、今回はいつもの勇ましい感じのブログではないのですが、単純に日銀を悪だという気には、私はなれないわけです。


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コメント

1. なるほどー

臆病過ぎる所があるのでは!ということですね。

2. Re:なるほどー

>syo-tenさん
いつもありがとうございます!
日銀に関して気に入らないのは、過去の政策についてしっかりと検証するということをやっていない気がするところです。どういう思惑があり、どういう懸念があり、この金融政策が着地点になったのかということが全然わからないのですね。FRBなんかははっきりと反省していたりするのですが、日銀は全くないのですね。そこが不愉快です。
白川総裁はよく「通貨の信認」という言葉を出しますね。これは世間では「円の信認」のことだと受け取っているきらいがありますが、恐らく彼の頭にあるのは「通貨全体」の信認のことではないかと思います。「通貨全体」の信認のことを考えたら、FRBやECBのような無責任なことはできるわけがないと、腹では思っているのだろうと思います。ただ、そういう無責任なことが他の通貨では普通に行われている中で日本の金融政策も考えねばならないという視点が弱いのではないかとか、そんな印象を持っています。

3. Re:Re:なるほどー

>朝香豊さんへ
FRBやECBの様な無責任なことがと書いてありましたが、その辺は良く理解してませんm(._.)mすみません。

ただ、いずれもテコ入れして検証しないのでは意味が無い気がします。

4. Re:Re:Re:なるほどー

>syo-tenさん
FRBやECBはリーマンショック・ユーロ危機前と比べてベースマネーを3倍くらいに増やしました。ベースマネーというのは、単純に言えば、中央銀行が刷ったお金の総量みたいなものです。ショックを吸収するためにはやむを得なかったかもしれませんが、非常に安易な通貨供給だともいえ、将来のバブルと悪性インフレの温床になってしまう可能性の高いものだともいえます。日銀はFRBやECBと同じ歩みはできないと考えていると思いますし、それは私も正しいと思います。ただ、公共投資を進めて実物経済にお金を流すということにまで難色を示しているのは臆病すぎるのではないか、それでは日本の経済が好景気になることはないではないか、通貨の信認のために日本経済が犠牲になってもいいといえるのか、と考えているのです。バブル化につながるかもしれないといってお金を流さないのももう一方で問題だなと感じている次第です。

5. Re:Re:Re:Re:なるほどー

>朝香豊さんへ
解りやすい説明ありがとうございました(*^.^*)
そういう事なんですねー。

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