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東京電力の電気料金の値上げ問題を考える

 東京電力の電気料金の値上げ問題を、今回は考えてみましょう。

 電気料金の値上げ批判の最も有力なものは、総括原価方式が採用されていることに向けられています。総括原価方式とは、かかると見積もられるコストに適正な利益を上乗せし、そこから電気料金を算定するというものです。総括原価方式を採用しているから、コスト意識が甘くなるどころか、むしろ無駄に高めのコストにした方がより大きい利益と結びつきやすいのだ、だから私たちは無駄に高い電気料金を支払わされているのだ、という批判が行われるわけです。

 話は飛びますが、関西電力の大飯原発の再稼働問題に際して、免震重要棟の未設置の問題がやり玉に挙げられてきました。福島原発の事故の経験からして、万一の事故発生後の対応を考えると、確かに免震重要棟は極めて大切な役割を果たすのは間違いないところですから、免震重要棟の未設置状態が一つの問題点として提起されるのは、ごく自然なことだとも思いますが、ところでこの話を総括原価方式と関連づけて考えてみると、奇妙なことが理解できます。

 もし電力会社が総括原価方式に基づいて、できるかぎり原価を高めていった方が利益が上がるためにそのように動くのだというならば、免震重要棟の設置ほど世間を納得させやすいコストアップ要素はなかったのではないかと思います。正当にコストアップできれば、それだけ利益を上がられるというのであれば、これに飛びつこうとするのは企業としては当然のことです。ところがそのようなことを関西電力はしてきませんでした。すなわち、総括原価方式で運営されているとは言っても、電気料金の値上げにつなげられそうなものならどんどんと飛びついていくということを電力会社が行ってきたわけではないということが、このことからわかるのではないでしょうか。

 東京電力の前社長の清水正孝氏は、社内では資材の調達畑を歩んできた方で、本社資材部長就任後に、支店毎に資材調達を行ってきたのを本社に一本化するとか、納入業者に価格を競わせるとか、海外出張で使う航空会社の絞り込みを行うなど、様々な合理化を推し進めて、全体で4割の経費節減を実現したことから「コストカッター」と呼ばれていたのだそうです。(ウィキペディアで「清水正孝」を参照してみて下さい。)年間2兆円にも上るコストの4割のカットですから、相当な辣腕ぶりですが、企業努力をしない方が利益が上がるはずの会社では、およそ考えられない話です。

 つまり、「電力会社→総括原価方式→原価が上がった方が利益額が大きい→常にコスト高に走る→高い電気料金を私たちに支払わせる」というのは、実情を正確に見たものとはいえないということです。かなり悪意に充ちた解釈だと考えた方が、現実に即していると思われます。

 輸入する天然ガスの価格が高い件も、総括原価方式のためにコスト意識が薄いのだと批判されるわけですが、電力会社にコスト意識がないというのが現実を正確に表したものではないことが既に確認できる以上、どうも違う理由があることが推測されます。

 日本で天然ガスの輸入が本格的に始まったのは1970年代からですが、当時のエネルギーの基本は石油でした。天然ガスは石油の代替燃料の位置づけであったので、石油価格と連動して天然ガスの輸入価格が決まるというのが、合理的な価格決定だったわけです。この取り決めは輸入国にとっても輸出国にとっても合理的に受け入れられるものであったために採用が決まり、このような商慣行が現在まで続いてきたと推測できるわけです。果たして、こうした商慣行を突然破ると日本は主張すべきだったのでしょうか。ましてや原発で事故が起こり、急遽天然ガスの輸入を急拡大しなければならなくなった余裕のない時期に、そんな強気な態度に出ることができたでしょうか。

 確かに最近はアメリカでシェールガスの開発が急速に進み、安価に供給できるシェールガスが増えたために、アメリカでは天然ガスの価格が大幅に下がりました。ところが、アメリカはこうしたエネルギー資源を戦略商品として位置付けており、日本には米国産の天然ガスを売ってくれない状態にあります。すなわち、アメリカの国益をより大きく実現するために諸外国に譲歩を迫る武器として、自国の天然ガスを利用しているわけです。

 ウォールストリートジャーナルは5月30日付けで次のように報じました。

The Obama administration is telling Japan and other allied countries they will have to wait before moving forward on plans to buy American natural gas, people involved in the talks said. (関係者筋によると、オバマ政権は日本を初めとする同盟諸国に対して、米国産の天然ガスを購入する計画が進展するのはまだ先になると伝えている。)

 原発事故に遭って大変厳しい状況に置かれているからとか、同盟国だからという理由では、安価な米国の天然ガスは利用させてもらえないわけですね。こうしたところにアメリカのしたたかな部分が表れています。そして、こうした事情で安価な米国産の天然ガスが輸入できなくなっていることは伝えず、米国で取引されている価格から大幅に乖離した高い価格で輸入しているのはおかしいというのは、フェアではないと思うのです。

 次のグラフを見てみて下さい。

$岐路に立つ日本を考える-過去数億年の二酸化炭素濃度と気温の関係

 これを見ると、2003年から2005年くらいまでは日本の輸入天然ガスの価格は、ニューヨーク市場での価格よりも割安だったことがわかります。つまり、日本が長期的に安定的に天然ガスを輸入するために採用してきた取引形態は、客観的に見れば、日本に有利に作用する時期もあったし、日本に不利に作用する時期もあったと考えるべきでしょう。こういう部分はフェアに見ておくべきではないでしょうか。

 確かに米国内でシェールガス開発が進んだ現在では、日本の天然ガスの輸入価格は、ニューヨークでの価格と比べて信じられないくらいの高値になっています。こうした価格の乖離が生じていることをベースに、天然ガスの輸入元と新たな価格の値決めの仕方について交渉を始めることは、当然意義のあることだとは思います。だからといって、これまでの商慣行に従って天然ガスの購入を行ったのは適切ではないというのは、暴論ではないでしょうか。

 私が懸念するのは、現在のような国難にあって、国民各層が気持ちを一つにして危機に立ち向かわなければいけない時期に、このような情報が流され、またこうした情報に踊らされることによって、国民各層の分断が進んでしまっていることです。そしてこうしたまずい事態に陥っているという危機感を、マスコミにいる人たちも政治家の方々も、あまり認識されていないのではないかと感じるのです。

 諸外国が自国の国益の実現を図るために、自国内のマスコミはもちろんのこと、自国外のマスコミについても情報操作を企図するのは、当然のことです。その中には、我が国の国民各層の意識の分断を図ろうという意図を持った働きかけや情報リークも数多くあるだろうと思います。私たちは日本人として、そのようなことがあることについての危機感を、本来は当然持っていなければならないはずですが、現実は完全に無防備といっていい状況が続いているのだろうと思います。

 そろそろこの状態から目を覚まさなければならないじゃないかと、この東電の値上げ批判を通じて、また意識を新たにしたところです。
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