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NHKスペシャル「日本国債」は、大きな誤解に基づいて作られたものだ!(11)


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 引き続き、NHKスペシャル「日本国債」について考えていきましょう。今回は第11回です。あと1回か2回でこの話題も打ち止めにしたいと思います。

 番組では、日銀の白川総裁のインタビューがあり、そのインタビューについての説明のナレーションが入ります。このナレーションは以下の通りです。

 「白川総裁の言う副作用とは何か。今、日銀は市場を通じて、銀行などの金融機関が持っている国債を買い入れています。日銀が買い入れる量が多くなりすぎると、政府の規律が緩んで財政を悪化させてしまう恐れがあると、白川総裁は言います。さらに、国債の購入で資金をあまりにもたくさん供給してしまうと、急激に物価が上がる可能性があります。そうなると、日本の通貨「円」の信用が損なわれる恐れがあると考えています。」

 このナレーションからすると、白川総裁の懸念点は以下の2つのようです。1つは、「日銀が買い入れる量が多くなりすぎると、政府の規律が緩んで財政を悪化させてしまう恐れがある」ということで、もう1つは「国債の購入で資金をあまりにもたくさん供給してしまうと、急激に物価が上がって「円」の信用が損なわれる恐れがある」ということです。このそれぞれについて、以下で考えていきましょう。

 まず1つめの、「日銀が買い入れる量が多くなりすぎると、政府の規律が緩んで財政を悪化させてしまう」というところから考えてみましょう。これは、日銀が国債を積極的に買い入れるようになると、政府が財政を日銀頼りにしてしまうということを言っているのだろうと推測されますが、このことはそんなに気にすべきことなのでしょうか。財政赤字とはどういうものなのかということを再度冷静に整理することから、この問題を考えてみましょう。

 「国民」は将来に備えて貯金を行います。「企業」は将来のマーケットが有望だと考えれば、積極的に投資しますが、むしろマーケットは縮小すると思えば、投資を手控えるようになり、借金をなるべくしないようにします。この結果として、「民間」(「国民」と「企業」)の貯蓄と借入のバランスが崩れますから、「国家」が財政赤字になって借金を背負い込むことで、全体としてのバランスが成立することになります。(貯蓄の合計額と借入の合計額は常に一致するはずです。)国家財政の赤字は、政府が無駄遣いに走っていたか、倹約にしっかり努めたかとは、それほどは関係しないと考えた方がよいです。要するに、「民間」の貯蓄と借入のバランスがどうなっているかで、国家財政の赤字がどの程度になるのかが決まってくると考えた方がよいわけです。従って、「財政規律」という精神論で国家財政の赤字を見る見方が、そもそもずれているのではないかと感じられるわけです。

 国家財政赤字の対GDP比が高くなっているとすれば、それは国内が企業にとって有望なマーケットになっていないために、企業が銀行から積極的に資金調達をするほどの大きな投資を行ってくれていないということを意味するはずです。

 特に深刻なデフレ不況に陥っている時には、需要不足が需要不足をさらに強化していく悪循環に陥っています。このデフレ不況下での生き残りを個々の企業が考えた場合、企業が積極的投資を行うことは考えられません。であるからこそ、一般企業に代わって借入を増やして投資を行う存在が必要になります。そしてその役割を果たせるのは政府以外にありません。

 政府がどの程度まで積極財政を行っていくべきかは、デフレの程度によって決まる話です。デフレの深刻化によって、人的資源にせよ、生産設備にせよ、十分に稼働するところに至っていないとすれば、そのことが国家として望ましい状態ではないということになります。国家が持てる力を最大限に活かすとすれば、人的資源も生産設備も最大限稼働させればよいはずです。政府の考えるべきことは、国家全体の力をどうすれば最大限発揮できるかです。この点を見落として、「国家財政」だけに目を向けてしまうとすれば、国家は持てる力を発揮できない方向に舵取りをしてしまうことになります。我が国はもう15年以上もこの愚かな間違いを続けてきましたが、もうそこからは脱却しなければなりません。

 そうした視点の転換を行った結果として、政府の財政赤字が単年度(あるいは数年単位)でみた場合に非常に大きくなってしまうということは、当然あります。そして、これを支えるために日銀の役割も大きくなってしまうということも、当然あるはずです。しかしそれは、今の環境に対して国家として最適な行動を採用しただけの話にすぎません。このようにして生じた事態(目先の財政赤字が拡大してしまうこと)を「政府の規律が緩んで財政を悪化させてしまう」と言って気にすること自体がおかしな話なわけです。

 次に2つめの、「国債の購入で資金をあまりにもたくさん供給してしまうと、急激に物価が上がって「円」の信用が損なわれる恐れがある」という点を考えてみましょう。

 確かに下手なやり方をすれば、政府財政の日銀依存によって、通貨供給量が増加してインフレ率を好ましくないレベルまで高めてしまう可能性はなくはないとは思います。ですが、インフレターゲットを定めて、インフレ率を例えば年間2%から3%の枠内に収めるという政策をとるということを前提としている以上は、この心配は過剰ではないでしょうか。3%を越えそうになれば、当然ブレーキをかけていくことを日銀に求めることになるからです。安倍総理が語っているのは「インフレ率が2%になるまでの無制限な金融緩和」です。「インフレ率が2%になるまでの」という修飾語句を外して、「無制限な金融緩和」→「無制限な国債購入」→「無制限なインフレ」→「円の信用喪失」のような議論の動かし方は、フェアな批判にはなっていないと思います。

 もちろん白川総裁に言わせれば、そんな単純なことではないと言われることでしょう。そこで白川総裁がよく議論に出す、マネタリーベースの対GDP(国内総生産)比というものを考えてみましょう。(マネタリーベースというは中央銀行がもともと発行したお金のことだと考えて下さい。)

 この番組の中でも白川総裁は「現在日本銀行が民間に供給している中央銀行のお金の量ですね。これのGDPに対する比率を見てみますと、先進国の中で日本が最大になっています。」と発言しています。これは、マネタリーベースの対GDP比では、日本が先進国中最大だといいたいわけです。

 まず理解しておくべきことは、デフレ不況に陥ると、このマネタリーベースの対GDP比は上昇するという点です。実際に流通しているお金は、このマネタリーベースをもとにして何倍にも膨れあがって使われています。景気がいいときには、勝手に膨れあがっていくわけですが、景気が悪くなるとなかなか膨れあがってくれなくなります。この結果、マネタリーベースを拡大させることで、膨れあがらなくなった分を補うことになります。このように、デフレ不況になるとマネタリーベースはぐんと大きくなる傾向がありますから、当然、マネタリーベースの対GDP比も、デフレ不況下では大きくなります。

 そしてデフレ不況下で景気を刺激するために金融緩和を続けていくとすれば、当然マネタリーベースは拡大する傾向を持つことになります。従って、デフレ不況が長引けば長引くほど、マネタリーベースの対GDP比はじりじりと上昇することになります。ここからわかるのは、日本のマネタリーベースの対GDP比が世界最大になっているのは、日本が長期に渡って脱デフレ対策の有効な手立てを打たないままできたためマネタリーベースの対GDP比が大きくなっているということになります。

 財政政策と金融政策を強力にミックスしないとデフレ不況から脱却することができないのに、これを両輪として活用することを日本はずっとやってきませんでした。その結果としてマネタリーベースの対GDP比が上昇しているにすぎないのです。それなのに、マネタリーベースが大きすぎることを理由として、デフレ脱却に必要な思い切った金融緩和に踏み切ることを日銀は躊躇してきました。さらに日銀は、積極的な金融緩和のみならず、積極的な財政政策にも疑念を向けてきました。要するに、日銀はデフレ不況から脱出するために、財政政策と金融政策を強力にミックスしなければならないという発想を持ってこなかったわけです。とすれば、これまで日本がデフレ不況から脱却できなかったのも当然ですし、日銀がこれまで考えてきた方向を推し進めてデフレ不況から脱却できる展望もわかないわけです。

 これに加えて、日銀は将来のインフレの懸念については過剰なレベルで心配をしています。ここについても切り込んでいきましょう。

 一般の物価に関しては、日銀が制御できないレベルのインフレは考えられません。このことについては、以前のブログ(今の日本でインフレの加速化はありえない!)でも書きましたが、ここでも具体例を挙げながら、簡単に触れておきます。

 第二次世界大戦後の日本では、確かに悪性のインフレが広がりました。このインフレを国債の日銀引き受けによる通貨膨張のせいにする議論がありますが、それは実際の話ではありません。戦前において戦費の調達のために、国債を直接日銀に買わせるようになったのは、1932年からのことです。日銀による国債の直接引き受けがインフレの直接的な原因なら、これ以降激しいインフレが襲ってきていないとおかしいはずです。ところが実際には下図に示されているように、終戦の年である1945年まで、日本に激しいインフレが押し寄せた形跡はないのです。




 終戦直後は、国土が焼け野原になり、国内の供給力は徹底的に破壊されました。破壊された供給力が容易には回復することがない状態にあっては、どれほど物価が上昇しても供給力不足は継続して需給バランスが回復しない中では、物価はどんどんと上がり続けていくということが起きてしまうしかありません。これがハイパーインフレというものの正体です。これを逆に見れば、国内の需要を満たすだけの供給力が十分備わっている時には、価格上昇によって需給バランスは容易に回復できますから、制御できない無茶苦茶なインフレは起きないものなのです。

 マネタリーベースの対GDP比の大きさからして、確かに景気回復が進んだときには同時に地価や株価などの資産価格がバブル的に上昇する懸念はしておくべきかと思います。とはいえ、バブルの発生を恐れてデフレからの脱出に舵を切れないというのでは、本末転倒ではないかと思うのです。また、バブルの発生を抑制するのは、金融的な手法に限られるわけでもありません。株価や地価の上昇が度を超していると感じたならば、その値上がりに対する課税(キャピタルゲイン課税)を強化することによって抑制を図るといった、他の手法もあるはずです。

 このように見てきたときに、日銀の白川総裁の懸念は過剰な心配に過ぎないのではないか、本末転倒の議論をしているのではないかと感じられるのです。

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