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ローラ・タイソン氏が語る、ユーロのあるべき経済政策

 ローラ・タイソン氏という方がいます。日本ではあまり知られていないかと思いますが、クリントン政権下で大統領経済諮問委員会の委員長を務めるなどした、経済界の大物です。アメリカのビジネス機会を拡大させるために、日本に構造改革路線を迫る戦略の立案の陣頭指揮を執ってきた方でもあります。ビジネススクール界の中でも世界最高レベルと評価される、ロンドンビジネススクールや、カリフォルニア大学バークレー校ビジネススクールのトップも務められたこともあります。こうしたことからわかるように、経済の世界では、理論面においても実務的な戦略面においても、大変卓抜した知見をお持ちの方です。

 このローラ・タイソン氏が、イギリスのガーディアン紙にユーロの経済政策に関する記事を寄稿されていました。記事の概要は、以下のようなものです。

 欧州各国で起こっている債務危機は、財政の無駄遣いのせいであり、緊縮財政に立ち戻るしかないと欧州のリーダーは考えているが、これは間違いだ。財政の無駄遣いが債務危機を招いたのではなく、従って緊縮財政に走ると危機を深化させ、ユーロを崩壊の危機に落とし、世界経済に混乱をもたらしてしまう。

 タイソン氏が言いたいことを、もう少し詳しく見てみましょう。

 「2007年に、スペインもアイルランドもGDPに対する政府負債残高の比率はドイツよりも遙かに低く、財政健全国のモデルだった。」 (In 2007, Spain and Ireland were models of fiscal rectitude, with far lower debt-to-GDP ratios than Germany had.)

 「イタリアはGDPに対する政府負債残高の比率がユーロ圏ではもっとも低いことを誇り、イタリア政府は低金利で難なく国債の借り換えができた。」 (Italy boasted the lowest deficit-to-GDP ratio in the eurozone, and the Italian government had no problem refinancing at attractive interest rates.)

 つまり、現在危機的状況にあるとされる、スペインもアイルランドもイタリアも、2007年時点では財政健全国だったじゃないか、放漫財政の国だったわけではないじゃないかと言っているわけです。このあたりのことは、日本ではあまり知られていないかもしれませんね。

 さて、これがギリシャ危機の表面化から急展開したわけです。タイソン氏は次のように述べます。

 「ギリシャの停滞の表面化によって成長が急激に止まって金融の流れが崩壊してしまい、歳入は激減し、政府は民間の負債の買い入れを余儀なくされ、政府の財政赤字も累積債務残高も跳ね上がった。」(When growth slowed sharply and credit flows collapsed in the wake of the Great Recession, budget revenues plummeted, governments were forced to socialise private-sector liabilities, and fiscal deficits and debt soared.)

 つまり、政府の財政赤字は政府の無駄遣いによって生じたものではなく、経済環境の変化によって生じたものであるというわけです。これをもとにタイソン氏は次のように述べます。

 「緊縮財政策は機能していない。実際、緊縮財政策は逆効果である。」 (Austerity is not working; indeed, it is counterproductive.)

 「財政健全化路線は、歳出削減策であれ、歳入拡大策であれ、生産活動を低下させて雇用を減少させることになり、その結果、税収が下がり、財政赤字は拡大し、GDPに対する政府の累積債務残高の比率が跳ね上がることになる。」 (Fiscal consolidation – whether in the form of cutting government spending or increasing revenues – results in lower output and employment, which means lower tax collection, higher deficits, and escalating debt relative to GDP.)

 「短期的には、低成長と高失業は実際には財政赤字を拡大させ、政府の累積債務残高を高める。」 (Low growth and high unemployment actually enlarge deficits and add to debt in the short run.)

 タイソン氏は、危機が顕在化した局面では、財政赤字を問題視して緊縮財政策に走るのは逆効果で、景気が悪化して税収が減少し、かえって赤字は深刻な状態になるというのです。

 こうした点から、タイソン氏は、現在の緊縮財政主義に陥っているユーロ圏の政策がおかしいのではないかと、疑義を向けているわけです。その上で、つぎのような文で最後をまとめています。

 「長期不況に陥る崖っぷちからヨーロッパを救い出し、ヨーロッパの金融市場を安定化し、世界の資本市場を再度大混乱に陥れないようにするには、財政規律を緩め、ユーロ共同債を発行して成長促進を図る政策に転換することは必須である。」 (A shift toward policies to promote growth, supported by the easing of deficit targets and the issuance of eurobonds, is essential to bring Europe back from the brink of sustained recession, to stabilise Europe's financial markets, and to prevent another significant disruption to global capital markets.)

 世界恐慌が到来してしまいかねない昨今の経済状況の中で、タイソン氏が述べていることは、ユーロ圏だけにあてはまることではないでしょう。日本もまた、緊縮財政主義から増税に走ろうとしていますが、今の経済状況でやるべきことかどうか、よく考えるべきではないかと思います。

 なお、タイソン氏の元記事はこちらです。
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