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最悪のTPP交渉参加表明


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安倍総理がTPPへの交渉参加の表明を行いました。最悪のタイミングです。

ここまで来たら、TPPを成立させないようにするしかないということになりますが、そんなことは可能でしょうか。

もし、日本に外交力があるならば、交渉に参加しない方向を採用できたはずです。アメリカの恫喝に屈したのが今回のTPPに関わる顛末である以上、TPP交渉においてもアメリカに逆らうポジションを取ることはできないはずです。過大な期待は持つべきではありません。

日本が交渉参加できるのは9月に米国で開かれる1回のみであり、次回行われる7月の交渉時にはセンシティブ品目についての交渉もほぼ固まると見られています。全体交渉は7月ですが、二国間交渉はそれ以前にそれぞれとの間で決着をつけておく必要があり、日本にも7月までに二国間交渉の決着をつけることが求められているようです。

とすれば、9月は全体の微調整程度しか意味を持たないはずです。そこに参加してはたして交渉力が発揮できるのかは大いに疑問です。

日米共同声明を振り返ってみましょう。

 日本には一定の農産品、米国には一定の工業製品というように、両国ともに二国間貿易上のセンシティビティーが存在することを認識しつつ、両政府は、最終的な結果は交渉の中で決まっていくものであることから、TPP 交渉参加に際し、一方的に全ての関税を撤廃することをあらかじめ約束することを求められるものではないことを確認する。

 交渉の結果として部分的なセンシティビティについては認められる部分もあるということは、確かに示されています。しかしながら、その前提はどうなっているのでしょうか。

 両政府は、日本が TPP 交渉に参加する場合には、全ての物品が交渉の対象とされること、及び、日本が他の交渉参加国とともに、2011年11月12日に TPP 首脳によって表明された「TPPの輪郭(アウトライン)」において示された包括的で高い水準の協定を達成していくことになることを確認する。

 あらかじめの聖域なんてものは認めず、全ての物品が交渉の対象となるということが、明確に書かれています。原則通りのTPPにしかならないということです。

 両政府は、TPP 参加への日本のあり得べき関心についての二国間協議を継続する。これらの協議は進展を見せているが、自動車部門や保険部門に関する残された懸案事項に対処し、その他の非関税措置に対処し、及び TPP の高い水準を満たすことについて作業を完了することを含め、なされるべき更なる作業が残されている。

 アメリカが日本市場に食い込みたい分野の筆頭として挙げている自動車と保険分野が「残された懸案事項」として記されましたが、日本側の極めて大きな懸念事項である、国民皆保険制度についても、食の安全・安心についても、ISD条項についても、政府調達についても、金融についても、サービスについても、何ら具体的な論及がなされないものでした。

 安倍総理が外交の成果として高らかに謳ったものは、実はアメリカの外交の成果を高らかに謳ったものにすぎなかったわけです。そして、この共同声明を発表させる方向にアメリカが動いた理由は、恐らく3つあると思われます。

 その1つ目は、日本がTPP交渉参加から逃げられないようにするためです。共同声明という公的性格の強い文書を出すことで、日本が後戻りできないようにしたわけです。要するに外堀を埋めたということです。

 2つ目は、オバマ政権の米議会対策です。日本が交渉参加を明言した場合に米議会が抵抗することを見越した対策です。米自動車業界は、日本のTPP交渉参加を認めないロビー活動を行っていますが、日本は米国が自動車を保護するのを認めてくれているんだよと訴えているわけです。また、日本の保険市場をさらにおいしく頂けるように日本がお膳立てしてくれたよというアピールです。これにより、米議会の日本警戒感を薄めさせようということです。

 そして3つ目は、各国が譲れないと考えているセンシティビティについては、二国間交渉によって扱われるものだということを印象づけるものとなっているということです。センシティビティについては「二国間貿易上のセンシティビティー」という言い方で、わざわざ「二国間貿易上の」という修飾語句を加えています。単なる「貿易上の」ではないのです。

 アメリカは自動車と引き替えに米の保護を認めたとしましょう。しかしながら、オーストラリアは日本の米の保護を認めてくれないという事態も発生するはずです。何せセンシティビティについては二国間交渉によるわけですから、オーストラリアがアメリカと歩調を合わせるとは限らないわけです。オーストラリアから安いお米が大量に入ってきて、日本の米作りが大打撃を受けるということも起きうるはずです。この時に、オーストラリアから輸入するのもアメリカから輸入するのも変わらないんじゃないかといって、アメリカからの米の輸入を阻害していることに合理的な理由はないと主張することも、考えられるのではないかと思うのです。そうやってアメリカからの米の輸入も結果的に解禁になるように持っていけるという策略を練っている可能性もあるわけです。

 TPPの条文が公開されていないため、実際がどうなのかはわかりません。しかし、そのような最悪の事態が待ち受けている可能性さえ、我が国は考えておかなければならないのではないでしょうか。なにせ後から入っていく日本には、すでに決まったことについては再交渉を要求することはできず、とにかく異議を申し立てずに受諾することしか認められていないのです。とにかく、日米共同声明は、非常に戦略的に練られた文書であり、そうしたシミュレーションまで頭に入れた上で作成された可能性も否定できないと思います。

 日米共同声明を踏まえて今日の安倍総理のTPP交渉参加を考えた時に、アメリカの外交のしたたかさを改めて感じる次第です。

 安倍総理の交渉参加表明にひるむことなくTPPに対する反対運動を強化していくことしか、我々には残されていません。大変困難になりましたが、何としても正式に発効する段階でのTPPへの参加阻止を実現するための運動を展開していきましょう。


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コメント

1. 最悪ですが

この段階まではオバマ大統領tの共同宣言の時点で既定路線であったわけで、問題は今後ということになりますね。
しかし私としては今回の件で自民党および総理は信頼とか人望といった重要な要素を失ったような気がします。
元々マスコミのネガキャンを理で跳ね返し続けたのはネットの力だったわけで、こちらのメンバーは強硬な反対派(私もそうですが)。
こんな事を繰り返していては人はやがて離れて行くわけで次かまたその次のネガキャンで叩き落されそうな雲行き。
現在の政治家でベスト級と考える安倍氏であの会見内容ではその他の総理候補はどんなものかと考えれば慄然とするものがあります。

2. Re:最悪ですが

>定点観測さん
安倍総理に好意的に解釈すると、凄まじい賭けに出たのかもしれません。交渉妥結後の批准の段階で潰すというものです。もちろん、安倍総理としては建前としては「参加」ですが、後発国の条件などの追及で窮地にたたされた結果として国会で否決されて退陣を迎え、TPP否決を前提とする形で例えば麻生氏に政権をバトンタッチするというものです。真意はわからないのですが、ひょっとしたらこんなことを考えているのかもと、勝手な憶測をやっています。
いずれにせよ、定点観測さんもご指摘のように、安倍政権に代わる政権はないわけですから、今回のことがあっても簡単に見捨てるわけにいかないというところが、歯がゆくつらいところです。

3. こんばんは!

お疲れ様です。
参加した裏には、なにかしら策みたいなものはないのでしょうか?
裏では、私たちには計り知れない何かがあるのでしょうから。

4. Re:こんばんは!

>syo-tenさん
安倍総理は、三橋貴明氏や藤井聡氏よりも、高橋洋一氏とか浜田宏一氏の影響を強く受けていると考えた方が、辻褄が合うんじゃないかと思うようになってきました。親米派の彼らの見解を鵜呑みにして、反対派はTPPの害を大きく言いすぎていると、総理自身が思っているように感じます。成長のためには大胆な規制緩和が必要だと、結構まじめに思っている可能性が高いと感じています。この点では安倍総理に幻想は持たない方がよいんじゃないかと思います。意外と小泉氏と考えが近い気がします。

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