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緊縮財政の成果を、40年単位で振り返って考えてみよう!


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 自分の記憶を辿ってみると、日本で財政赤字が問題として認識されたのは随分早く、1970年代のことだったと思います。1973年の石油ショックによって、日本経済はそれまでの高度経済成長から一転してマイナス成長に落ち込むという大きなショックを味わい、日本政府はこのショックをできるかぎり吸収しようと、思い切った財政政策を出動しました。もちろんこれによってショックは吸収されましたが、高度経済成長の終焉を感じ取った企業は積極的な投資を手控えるようになりました。

 このことはマクロ経済面でのバランスを崩させることになりました。一般家庭が蓄えた潤沢な貯蓄を、旺盛な設備投資意欲を持つ企業がほぼ全額借り入れてくれていたために、この両者の間で資金需要のプラスとマイナスが相殺されていました。しかし、企業の設備投資意欲が減退すると、一般家庭が蓄えた貯蓄の全額を企業が借り入れることはなくなります。即ち、企業が借りてくれない資金を、国家が借り入れることが必要な社会に移行したわけです。(お金の貸し借りは、社会全体では貸し出す金額の合計と借り入れる金額の合計が必ず一致することに着目して考えてみてください。)

 低成長経済への移行によって、日本政府には必然的に財政赤字が毎年積み上がるようになり、これに対する危機感が1970年代後半には広がっていました。そしてこうした危機感を背景として、1981年には財界の重鎮であった土光敏夫氏が会長を務める「第二次臨時行政調査会」(土光臨調)「増税なき財政再建」をキャッチフレーズにして発足しました。行政側が費用を負担するのを減らし、直接サービスを受ける人がそれに見合った負担をすべきであるという「受益者負担」とか、国家財政支出の伸びを認めない「ゼロシーリング」といった原則が打ち出されていました。そして土光臨調が出した答申通りに財政再建ができなかったことを責められて、当時の鈴木善幸内閣が退陣するということが、すでにこの時に起こっていました。

 土光臨調より前と現在とを比べると、隔世の感があります。国鉄は全国津々浦々まで鉄道路線を張り巡らせていましたが、非効率だということで民営化され、多くの赤字ローカル線が廃止されました。かつては健康保険は被用者本人はわずかな定額の診療費以外は10割給付でほぼ無料でしたが、現在は7割給付で3割は自己負担になりました。消費税は以前はありませんでしたが、すでに5%にまで引き上げられました。そして来年4月からは8%に引き上げられます。30年とか40年という年月で振り返ってみると、国民生活に負担を負わせる「改革」がものすごいレベルで押し寄せてきたことがわかります。

 さて、財政赤字を解消しようと、諸外国には見られないペースで緊縮財政を強化していった結果はどうだったのでしょうか。皮肉なことに、世界で最も財政悪化速度の高い国となってしまいました。私たちはこのパラドックスから目をそらさないで現実を見つめなくてはなりません。

 このパラドックスは、マクロ的なバランスに変化が生じたために国家財政の赤字が必然化したのに、「無駄遣いが多いから」というミクロの視点に立って国家財政を切り詰めれば解決できると考えたことから生まれました。現在日本の民間企業は、マクロで見ると債務残高をどんどん減らしています。上場企業の半数以上が無借金経営を誇るようになりました。つまり、本来は投資のために借り入れを行うべき企業が、借り入れを行うどころか貯蓄を行うレベルにまで投資を減らしているわけです。一般家庭が貯蓄をし、企業までもが貯蓄を行っていくとすれば、国家財政が赤字化するのは必然でしょう。

 それなのに今なお、「もっと抜本的な改革をしないといけない」という議論ばかりが目立ちます。投資を減らして貯蓄を増やしている企業に対して法人税減税を行うという「改革」さえ、当然のことのように語られています。与党ばかりではありません。維新の会もみんなの党も江田グループも、「改革」の本丸争いをしている有様です。30年以上に渡って当たり前とされてきた「行財政改革」マインドにすっかりはまってしまい、そこから抜け出した思考ができなくなっているのでしょうか。

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PS 皆さんは北野幸伯氏のことをご存知でしょうか。北野氏は「(ソ連の)外交官およびKGB要員養成所」とも呼ばれていた、ソ連外務省付属のモスクワ国際関係大学国際関係学部に留学して卒業し、カルムイキヤ自治共和国の大統領顧問としての仕事もされた、まさにスーパーマンです。現在も日本の自立を願って、カリスマ的なメルマガ「ロシア政治経済ジャーナル」を発行されています。

 この北野氏が最近「日本自立のためのプーチン最強講義 もし、あの絶対リーダーが日本の首相になったら」(集英社インターナショナル)を出版されました。プーチンが日本にやってきて、日本の政治家の指南役になったら、どんなことをアドバイスするかというのを、物語仕立てにして読みやすく書かれたものです。

 「日本は自立を目指すべきだが、孤立してはいけない」というのがこの本の基本メッセージですが、その主張の根底にあるのは、私見では確かなリアリズムだと思います。とても読みやすい本ですから、さらさらと流れてしまいがちですが、この本の通底に流れているリアリズムというものがどういうものかという問題意識を持って読んでいくようにすると、北野氏のメッセージがなおくっきりと理解できるのではないかと思います。

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コメント

1. 緊縮財政はダメですね!

EUでのフランスではないですが財政支出を増やすとS&Pに格付け下げられたりします。ラインハート・ロゴフ論文が間違いであったにもかかわらず、いまだに緊縮財政を強いる勢力が多いですね。このあいだ、シダックスの志太会長主催の希望日本の交流会に参加してきたんですが、政策ハンドブックにはプライマリーバランスの黒字化、無駄な財政支出の削減、1000兆の財政赤字の危機等書かれていました。企業家は家庭の主婦とマクロ経済の認識不足に差がないようです。規制緩和、自由貿易、市場競争が大好きなようでデフレ期にインフレ対策するようなチグハグな思想だと思いました。まともな経済ブレーンはいないのでしょう。投票率を上げて政治をよくしようというところだけは賛同出来ても個別政策は維新、みんなの新自由主義的主張と大差ないと思いました。

2. 改革=新自由主義ではないですけどね

緊縮から反転しつつある点は評価できますし、あとは内容次第だと思います。

ところで、記事中の記載について

>かつては健康保険は10割給付で医療費はほぼ無料でしたが、現在は7割給付で3割は自己負担になりました。

とありますが、いつ頃の話なのでしょうか。
一応、医療費負担の変遷を一覧にしたものを見ると、一時老人医療が無料だったことはありますけど、1983年以前は本人1割家族3割、1972年以前は本人定額、家族5割、国保で3割負担なのですけど。
http://fpdiary.blog23.fc2.com/blog-entry-329.html

3. Re:緊縮財政はダメですね!

>グラースさん
グラースさんはいろんなところに行かれているのですね。「根底から作り替えないと日本はダメだ」という議論は、クソ真面目な日本人には受け入れられやすいのでしょうね。世界的に見て日本の経済成長が最も低いレベルにあるのは、日本人が世界で最も不真面目であるからなのかという問いを、こういう人たちにはぜひ考えてもらいたいですね。

4. Re:改革=新自由主義ではないですけどね

>ねこねこさん
厳密な表記を大切にされるねこねこさんらしいコメントですね。ありがとうございます。個人的には「ほぼ無料」=「わずかながら有料」という形で、定額負担についても記述できていると思っていたのですが、ねこねこさんのご指摘を受けて、健康保険のところについては以下のように書き直しました。
「健康保険は被用者本人はわずかな定額の診療費以外は10割給付でほぼ無料」
「改革=新自由主義ではない」はその通りだと思います。医療費が無料に近ければ近いほど優れているとも、私は思ってはいません。均衡財政が望ましいのではないかという考えは素朴に持ちやすいものですから、それ自体を「新自由主義」だと非難するのも違うかなと思います。

5. 無題

>朝香豊さん

日本は、規制が厳し過ぎてニュービジネスが生まれないとか、農業、医療の既得権益者?が新規参入者を阻んでいるとか、希望日本の志太会長は素朴に思っているようです。老若男女の参加者も目を輝かせて話を聞いている姿に私は食傷気味でゲンナリしてしまいました。日本が生産効率が高過ぎて、頑張れば頑張るほど供給過剰になって、益々総需要不足になって、需給ギャップが生じている点については、彼らに話しても猛反発を受けそうで、話すことがはばかられました。周回遅れの新自由主義に取りつかれた信奉者に通じそうな気がしなかったからです。志太会長の指南役は甘利さんの代役でTPP交渉にあたっている西村内閣府副大臣のようです。西村さんは政治家になる前は経済産業省の官僚だったそうですので、規制緩和大好きな思想のようです。希望日本の会は私はあまり期待出来ないと思いました。つかず離れずで距離をおいて付き合うしかないですね。

6. マクロ経済

私は数値の入った経済学は苦手でした。

しかしここにきて、勉強しないと生きていけない時代になりました。

今日の記事、初心者にはとても感銘を受けました。

7. Re:Re:改革=新自由主義ではないですけどね

>朝香豊さん

恐縮ですm(_ "_ )m
お手数をおかけしました。

健康保険だけでなく、あらゆる社会の制度がそうなんですけど、始まった目的と、これまで変更されてきた経緯や変更の目的を見ることで、
「これまでの方向性をどう変えるべきなのか、あるいは変えない方が良いのか」
っていうのは、今後の日本を考える時に重要だと思ったのです。
その点で、これまでの健康保険制度の変遷は、限りある財源で段々と広がる範囲にどう対応するか、様々に腐心されてきた結果の現在の国民の負担だったりする点は、やっぱり無視しちゃいけないと思うんですよ。

特に、社会保障のあり方は、経済を含めて社会の有り様を大きく変えますから、国民の負担が増える(あるいは減る)ことに対する社会のコンセンサスはどういうものだったのか、事実に即してまず考えてみることって大切かなと。

細かいことを申しまして、失礼を致しましたm(_ "_ )m
今後ともよろしくお願い致します。

8. Re:無題

>グラースさん
私が乗り込んでいって、空気を読まない発言をしてみた方がいいでしょうか。空気を読まないのは得意なので。(笑)

9. Re:マクロ経済

>まささん
私の言いたいことが伝わったようで、よかったです。これからもよろしくお願いいたします。

10. Re:Re:Re:改革=新自由主義ではないですけどね

>ねこねこさん
ご丁寧なコメント、ありがとうございます。
基本線ではねこねこさんの考えられていることと一致していると思っています。なんでもかんでも「新自由主義」で断罪するという方向性は違うかなとも思います。
ただ、これまでの医療制度改革の根底に、あるべき医療の姿を、国民にバランスのよい負担を求めることも含めて純粋に追及するという視点からではなく、緊縮財政を正しいと考えることを前提として、歪んだ視線が向けられてきた側面も無視できないと思うわけです。
私が高校生だったのは1980年代初頭ですが、当時は将来医者が余る時代が来ると言われていました。医学部志望の友人が自嘲気味に語っていたのが記憶に残っています。ところが実際には、医者は余るどころか大いに不足してしまい、様々な問題を生み出すに至っています。財政を抑制したいという願望から出発し、それだと医者が多くなって医療費がかさむ社会では困るというバイアスを生み出し、医者は将来余るという見通しを作るに至り、医学部定員を抑制する政策が実行されました。これと同根の発想が健康保険制度改革にも持ち込まれていたように思うわけです。その点が残念に思うところです。

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