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「貿易自由化が平和をもたらす」は幻想だ!


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 貿易自由化が進めば進むほど好ましいと考える立場の人たちがよく口にすることに、経済の相互依存が進めば、お互いがお互いを必要とする程度が高くなり、戦争などの国際対立という無駄なコストを払う意識が薄れていくというものがあります。今回はこれについて考えてみましょう。

 確かに経済における一側面としては、そういう部分があるのは理解できます。日本の財界が政府に対して中国外交で強硬手段を取らないように牽制してくるのも、中共政府から嫌がらせを受けて対中貿易や中国での現地生産において日系企業に損失が発生する事態をなるべく小さくするように注意を払ってもらいたいということでしょう。経済的な関係が強固になるに従って、そこから得られる利益を失わないようにしたいという力学は当然成り立ちます。

 しかしながら、世界史を見た場合に、すべての国が常にこうした経済的側面を最大限尊重してきたかと言えば、そんなことはないというのが実際でしょう。

 戦前におけるアメリカの対日政策の変更はどんな過程を辿ったでしょうか。アメリカは1939年には7月に日米通商航海条約の破棄を通告し、12月には航空機ガソリン製造設備、製造技術の関する権利の輸出の停止を通知しました。1940年には6月に特殊工作機械等の対日輸出を制限し、7月に鉄の輸出管理法を制定するとともに、国防強化促進法を成立させて輸出可能な品目を大統領が議会の承認を経ないで決めることを米議会は認めました。8月には航空機用燃料の対日全面禁輸に踏み切り、9月には屑鉄も全面禁輸に踏み切りました。12月には航空機潤滑油製造装置など15品目の輸出が許可制(事実上の禁輸)になりました。1941年には7月に日本の在米資産の凍結令を出し、8月には石油の対日全面禁輸を行っています。

 当時の日本は石油と鉄の7割程度、工作機械類にしても6割程度をアメリカからの輸入に頼っている状態でした。つまり日本とアメリカは非常に強固な経済的な関係にありました。言わずもがなですが、石油と鉄と工作機械がなければ、近代的な産業は成立しません。特に飛行機・船・車両・銃などの生産と運用にはこうしたものはすべて必須でしたから、日本にはこうしたものが入手できないというのは致命的なダメージがありました。この状況にあって、日本はこの経済的関係を何とか維持したいとの立場にあったのに対して、アメリカはこの関係が日本を牽制するのに極めて有効であると判断したわけです。つまり、経済的相互依存関係はそこから受ける互恵関係から平和を求める動きにもつながるものでもあると同時に、相手の弱みを握るという意味から戦略的に利用できるという判断を引き出す根拠にもなりえるわけです。

 こうしたことは第二次大戦期のような特殊な状況でのみ成立していることではありません。尖閣での中国漁船による海保巡視船への突撃事件が起こった時に、中共はレアアースの対日禁輸処置を取ったことを忘れてはならないでしょう。また、今まさにロシアが欧米による経済制裁によって大きな苦境に立たされているのも、ロシアの弱みに付け込む動きとして行われていることは言うまでもないでしょう。

 当然ながら、対ロ禁輸処置は欧米の対露輸出関連企業に大きな打撃を与えています。例えば「ロシアの声」は対露制裁によってイタリア北東部エミリア=ロマーニャ州だけで1000社を超える企業が倒産に追い込まれたと報じました。「ロシアの声」の公表ですからそのまま受け取るわけにはいきませんが、輸出ができないというのはモノが売れないということですから、企業に対して与える影響は甚大であるのは言うまでもないでしょう。

 しかしそうした経済的な利益を犠牲にしてでも、他国の動きを牽制するのにこの経済的な依存関係を利用しようとする国家が出てくる可能性は、決して低いものではありません。少なくとも中共政府はそうした力学を活用することを躊躇せずに選択できる国家です。

 ロシアはエネルギーを完全に自給でき、食料もほぼ自給できる国家です。こういう点でロシアは日本よりもはるかに安全保障に強い国家だとはいえますが、それでもこの経済制裁においてルーブルが暴落し、通貨防衛のために政策金利を大幅に引き上げざるをえなくなりました。政策金利は1年前の2014年1月には5.5%だったのが、その後7%、7.5%、8%、9.5%、10.5%、17%と、凄まじい勢いで上昇していきました。こんな金利では当然国内投資はストップせざるをえませんから、凄まじい苦しみをロシア国民に強いることになっているはずです。

 エネルギーも食料も自給からはほど遠い状態にある日本で同様の処置が取られたら、一瞬で国家は崩壊するでしょう。諸外国は時に非合理な理由で締め上げてくることもあるわけで、そういう現実の力学を考えた上で、どの程度まで貿易を自由化すべきかを考えるべきだと私は思います。


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