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絶対的な善悪論に基づく判断は有害である


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 トランス脂肪酸は健康に悪いから使用を禁止すべきであるとの主張は、今やかなり広がっているように感じます。確かに欧米ではトランス脂肪酸には厳しい規制がひかれているのに対して、日本では「野放し」になっているという主張には、一見すると強固な根拠がありそうにも思えます。しかしながら、日本の実情に即して考えるならば、むしろ「野放し」の方が好ましいのではないかと、個人的には思います。

 トランス脂肪酸の取り過ぎが健康問題に対して疑義を生じさせるのは総摂取カロリーの1%以上をトランス脂肪酸が占める場合であるとわかっています。これは日本の厚生労働省だけが主張しているわけではなく、世界保健機関(WHO)も総摂取カロリーの1%未満となるようにすべきだとの勧告を出していますので、世界的に合意がとれていると考えてよいでしょう。

 では、日本人が平均して摂取しているトランス脂肪酸はどのくらいなのでしょうか。実は男性で総エネルギー摂取量の0.30%、女性で0.33%にすぎません。トランス脂肪酸の摂取量の多い方から5%に位置する人たちでも、男性で0.70%、女性で0.75%にとどまっており、総摂取カロリーの1%以上となる日本人はほとんど存在しないことがわかっています。しかも1%を若干超えたところで、それ以下の人と比べて健康被害の確率が1%程度上がるか上がらないかにすぎません。よく言われるコレステロール上昇作用については総摂取カロリーの5%以上摂らないと実はほとんど問題にはならないことがわかっています。

 「仮にそうだとしても、トランス脂肪酸はなるべく取らない方が少なくとも無難ではないか」との意見もあるかと思います。しかしながら、例えばマーガリンやショートニングからトランス脂肪酸を抜いたとしたら、その分を別の脂肪酸が埋め合わせすることになります。トーストにマーガリンを塗る場合を考えてみれば、塗るマーガリンの量が変わらなければ、使われる脂肪酸の総量は変わらないはずで、トランス脂肪酸が別の脂肪酸に置き換えられるだけだということになります。そしてその際に置き換わる脂肪酸はほとんどが飽和脂肪酸になります。

 飽和脂肪酸の摂取量については、18歳以上で総摂取カロリーの4.5~7.0%が望ましいとされているのですが、日本の20代の女性は中央値で7.4%、30代の女性で中央値で7.3%ほどとなっており、要するにこうした女性たちの場合には飽和脂肪酸については半数以上の人たちが摂り過ぎているということになっているわけです。ここからわかるのは、日本の現実に即した場合には、トランス脂肪酸の摂取量はむしろ若干増えても健康問題が発生しない一方で、飽和脂肪酸については摂取量を減らすのが好ましいということです。そうすると、日本の現状に合わせる形で脂肪酸の摂取状況を変えようとした場合、トランス脂肪酸を全面的に禁止するような規制を導入して、却って飽和脂肪酸の摂取量を増やしてしまうような政策は好ましいとは言えません。むしろ、トランス脂肪酸の規制を導入するのを避けて飽和脂肪酸の摂取量がなるべくこれ以上増えないようにする方が日本人の健康状況に即した政策として正しいということがいえます。

 もっとも飽和脂肪酸についても、上限の7%を若干超えたところで健康被害の確率が1%程度上がるか上がらないかにすぎないともいえ、過剰に問題視すべき話ではないとの見方もできますが、それはここではこれ以上は触れないようにします。

 いずれにせよ、こうしたことが現実であるのに、こんなトランス脂肪酸に類するような過剰に危機を煽る情報が、世間にはあまりに多く流布しています。農薬についても、添加物についても、放射線についてもそうでしょう。あるかないかを問題にするのではなく、どのくらいあるとどの程度リスクが高まるのかを冷静に考えたいものです。どんな量でも絶対に悪だなどということはおおよそ考えられません。絶対的な善悪論に基づく判断は有害ではないでしょうか。マスコミがこういう点でまともな報道をすることが期待できないのは、日本の悲劇ではないでしょうか。


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