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日露首脳会談への評価



 15日、16日の日露首脳会談の結果については、領土問題の前進が全く見られず、日本国民としては実に残念な結果となりました。「日露両国の特別な制度の下での共同経済活動」については、日露両国の間でのニュアンスの違いが大きく、このままでは共同経済活動が始められないものに留まったかと思います。岸田外務大臣は「四島の帰属の問題を解決して平和条約を締結するためにも共同経済活動に関するこの協議を通じて北方四島の開発に我が国が参画していくこと、これは大変意義があると考えます」と述べていますが、言ってみる意味が不明です。ロシア側がアナウンスしているように、北方領土で活動する日本企業がその収益をロシア側に納税し、ロシア側の警察権の行使を前提とするならば、北方領土におけるロシアの主権を認め、日本の主権を事実上断念することにしかならないともいえます。岸田外務大臣は「日露双方は日露両国間の条約によって共同経済活動を実施するための法的基盤を作ることを検討する、ここで一致をしています。これは,我が国の法的な立場にこの経済活動が矛盾しない、このことが確保されるものであると考えます」と述べていますが、もしこの立場に立つならば、ロシア側のアナウンスに対して日本政府として明白に抗議すべき話ですが、そのような抗議を日本政府が行った形跡はありません。

 岸田外務大臣は「新しいアプローチについては、今までの様々な議論の中身について明らかにすることは、今現在、控えなければならないと思っています」とも語り、今なお「新しいアプローチ」の具体的な中身が見えない状態です。私には「新しいアプローチ」とは「領土の帰属について一旦は棚上げしたうえで新たな法的基盤を作って共同経済活動を実施する」というもののように感じますが、だとすれば日本側の理解について誤解がないように釘を刺しながら交渉を進めていないと、日本がこの点で譲歩してきたとロシア側に取られたとしても、仕方ないところがあろうかと思います。そしてそのような事態が現実に発生しているわけで、ここを明確に否定するメッセージを日本政府が出していないのは、極めて危険に思います。

 北方領土交渉がなかなか進展しないのを日本政府の交渉のまずさだけに原因を求めるのは正しくないかと思います。ロシアにとって領土交渉が不利になる情報がこれまでロシア国民の中ばかりか日本国民の中でもあたり前のこととして共有される状況を作ってこなかったという事情が関係しているかと思います。日ソ中立条約を一方的に破って参戦してきただけでなく、それが日本に降伏の意思があって、ソ連政府に仲介を頼んでいた中で行われたということを知っているロシア人はほとんどいないでしょう。しかも千島列島にソ連軍が攻め込んできたのは日本がポツダム宣言を受諾して3日後の8月17日になってからであり、歯舞諸島に至っては日本が降伏文書に調印した9月2日を過ぎてから軍事侵攻が開始されたわけです。このあたりの事情を知っているロシア人もほとんどいないでしょう。さらにソ連軍が軍隊として一般の日本人に対する略奪・発砲・強姦を繰り返していたことや、ポツダム宣言受諾後に武装解除された日本軍捕虜を奴隷的な強制労働に従事させたシベリア抑留についての事実について知っているロシア人もほとんどいないでしょう。そもそも以上の経緯についてあらかた知っている日本人すらほとんどいないのが実際です。こうした情報を教育の場で伝えることを日本政府はしてこなかった上、マスコミもほとんどこういう事実に触れる情報提供を行ってきませんでした。ましてや対露情報戦略・対外情報戦略としてこうした情報がロシア側や国際社会に少しでも浸透するように最大限の力を尽くすという方針が日本にはありませんでした。こうした中で戦争中に奪われた領土について返還交渉を行ってその成果を得ようというのは、実際のところ無理でしょう。

 日露が友好的に接近することは、戦略的には極めて重要だということは言えるでしょう。今回の交渉を通じて日露間での2プラス2(外務・防衛閣僚級協議)の再開が決まるなど、安全保障上において対中戦略的に重要な前進を見せたのは確かに成果だと思います。ただ、日本人の対露不信感がぬぐえていない現実をあいまいにしたまま事態が進行しているとしたら、そこにもろさを感じざるをえません。日本政府は日本人の持つ対露不信感に根拠があることを率直にロシア側に伝えているのでしょうか。例えば、樺太周辺領域における資源開発プロジェクトの「サハリン2」が信義にもとる行いによって日本側の権益がロシア政府によって奪い取られ、日本企業に大打撃となりました。こうした信義にもとる行為を二度と発生させないことをロシア政府として確約しているのでしょうか。日露友好においてはこうした点でのロシア政府の明確な保証が大前提かと思います。そこに踏み込んだ議論がなされ、それを前提にした枠組みが日露の間で築かれているのであれば大いなる前進だと評価することができますが、こうした話は全く出てきていませんから、そうはなっていないのではないかとの不信感をぬぐうことができません。それが極めて残念です。

 対中戦略における浮き足だった日本側の姿勢が見透かされ、対中戦略を考えた日露連携は日露双方にとって大きな利益のある話であるのに、ロシア側からの外交カードとして利用されてしまった感もあります。この話は領土交渉や経済協力交渉とは別枠にして先に進めておくべきものだったと思いますが、そうはならなかったことは残念です。この点についても日本政府の戦略的なミスがあったのではないかと私は考えています。

 こうした立場から、今回の日露首脳会談の成果についてはあまり高く評価できないのではないかというのが私の立場です。

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