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恐慌研究の第一人者ローマー女史の主張


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 クリスティナ・ローマー女史のことはご存知でしょうか。オバマ政権の大統領経済諮問委員会の委員長(2009年~2010年)も務めた、アメリカを代表する経済学者の一人で、1930年代の大恐慌の研究で優れた業績を挙げていることでも知られています。このローマー女史が "The Fiscal Stimulus, Flawed but Valuable"(財政政策…酷評されるが、貴重なるもの) という記事をニューヨークタイムズに寄稿しています。これを今回は紹介します。

 オバマ政権は2009年に発足してすぐに、8000億ドルという巨額の追加的な景気刺激策(2009年米国再生・再投資法)を打ち出しました。8000億ドルというのは当時のレートで90兆円程度に相当する、凄まじい金額でした。ただ、ここまで大きな経済対策を打ち出したのに、失業率はその後10%にまで高まってしまいました。そしてこれこそ、この景気刺激策が役立たなかった証拠だと、共和党の副大統領候補のポール・ライアン候補が攻撃してきたのです。このことに対する反論を、彼女はこの記事で書いています。

 ここで彼女は面白いたとえ話を使います。

 To understand what’s wrong with that reasoning, think of someone who’s been in a terrible accident and has massive internal bleeding. After lifesaving surgery, the patient still feels rotten. But we shouldn’t conclude from this lingering pain that the surgery was useless — because without it, the patient would have died. (その理由付けがおかしいことを理解するには、ひどい事故に遭って大量の内出血を起こしている人を考えればよい。救命手術を受けた後でも、患者の気分はすぐれないものだが、このように痛みが長引くからといって、手術は無駄なものだったと結論づけるべきではない。手術しなければ死んでしまっていたのではないか。)

 では、当時の「病人」の状態はどのようなものだったのでしょうか。

 THOUGH the Recovery Act appears to have had many benefits, it could have been more effective. Most obviously, it was too small. When we were designing it, most forecasters estimated that the United States would lose around six million jobs during the recession without fiscal stimulus. Compared with this baseline, creating three million jobs would have filled roughly half of the employment hole. (再生法は多くの便宜をもたらしたように見えるが、もっと高い効果を持つこともできたのだ。極めて明白なことだが、規模が小さすぎたのである。我々が再生法を設計していたときに、財政刺激策がなければこの不況の中で600万人ほどの失業がアメリカで出ると見積もっている人が実に多かった。ここから考えれば、300万人の雇用を産んだとしても、ざっと半分なのだ。)

 As it turned out, even with the stimulus, we lost almost nine million jobs. Indeed, because of horrific job losses in late 2008 and early 2009, we’d nearly passed the six-million mark before the Recovery Act was even signed. Adding in the estimated effect of the act, the correct no-stimulus baseline was a total employment fall of nearly 12 million. With a loss that big, creating three million jobs was helpful, but not nearly enough. (刺激策を伴っても、結果としては、700万人近い雇用を失ってしまった。2008年と2009年初頭の恐るべき雇用喪失のせいで、再生法が成立する前ですでに600万人の雇用が失われようとしていた。何もしなければほぼ1200万人の雇用喪失があったのだ。300万人の雇用回復は意味あるものではあったが、これほどまでの雇用喪失を前にしては、十分なものではなかったのである。)

 彼女は世界大恐慌研究の第一人者であり、彼女自身はバブルの崩壊の持つ破壊的な力を存分に理解していました。ちなみに、この時の刺激策をまとめるに際して、彼女は実は1兆8000億ドル(当時のレートで200兆円程度)の刺激策が望ましいと主張したのですが、これほど巨額になってはとてもではないが議会を納得させられないということで、8000億ドルの刺激策に圧縮されてしまったという経緯があります。議会対策のために、自分の学者としての結論からすれば半分以下に削られながら、こんなに巨額の刺激策を実行しても失業率が上がったと言って批判されるのは、耐え難いことだったのではないかと思います。

 ところで、この景気刺激策には、雇用を生み出したということに留まらない、もっと長期的な効果もあるということを述べています。

 It’s too early to measure the value of the roads, bridges and airports improved through stimulus funds. But a survey of influential studies looking at highway construction in the 1950s and ’60s suggests that such investments contribute substantially to long-term growth. (刺激策を通じて整備された道路や橋や空港の価値を決めつけるのは早すぎる。1950年代や60年代の幹線道路網の建設を調査した有力な研究を見てみると、このような投資が長期的な成長に大きな貢献をしていることがわかる。)

 日本でも、新幹線が発達していなければビジネスマンの往来もこれほど活発にはなっていなかったでしょうし、道路網が整備されていなければ物流も今ほど発達はしていなかったはずです。公共投資が行われ、鉄道網や道路網が整備されればされるほど、物流も人員の往来も容易になる分、経済の効率性が高まるということについて、語っているわけです。

 そしてさらに大きな効果があったと付け加えます。

 The act may have also helped prevent a permanent rise in unemployment. The longer workers are unemployed, the more likely they will never find steady employment again.  (この法律は失業率の長期的な上昇を止める役割も果たしたのである。労働者の失業期間が長くなればなるほど、定職を再び得られる可能性はなくなるものだ。)

 ただ、2009年再生法については、規模が小さすぎたということだけですますわけではなく、冷静な反省もしています。

 A different mix of spending increases and tax cuts might also have been desirable. The money given to state and local governments to ease their budget problems appears to have been particularly effective for job creation in the near term. On the other hand, many families didn’t even realize they had received a tax cut, so that part of the act may have had a smaller impact than was initially projected. And I desperately wish we’d been able to design a public employment program that could have directly hired many unemployed workers, especially young people. (歳出増加と減税との組み合わせは、再生法とは違った形の方が良かったかもしれない。予算の問題を小さくするのに州政府や地方公共団体に渡したお金は、短期の雇用創出には特に効果が高かったようである。他方、減税の恩恵に気付いてすらいない家庭も多かったので、こちらについては当初思っていたほどの効果はなかったのではないか。多くの失業者、特に若者を直接に公務員として雇用できるようにすればよかったなあと、思わずにはいられない。)

 さて、このようなローマー女史の論説を見ていくと、共和党のポール・ライアン氏と同じような捉え方は日本の国内でも根強いことを再確認します。バブル崩壊によって経済環境は激変し、特に民間の投資マインドが急激に冷え込みます。破壊力が大きすぎて、政府がかなり大型の景気対策を打っても、さらに経済が悪化するような事態まで生じることすらあるわけです。ここで判断を間違えてしまうというのは、よくあることなのでしょう。それほどバブルの崩壊がもたらす破壊力の大きさは見過ごされやすいものなのだと、改めて感じました。

 スティグリッツが何を言っているのか、クルーグマンが何を言っているのか、サマーズが何を言っているのか、ローマーが何を言っているのか、そろそろ日本の経済学者も見るべきところを変えてもらいたいな思います。


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コメント

1. いつも有難うございます

いつも勉強になる記事を有難うございます。

今日の読売新聞の1面のコラムは武藤日銀副総裁・大和総研理事長が書いています。
曰く、「日本は社会保障費が高すぎる~、歳出削減~、財政再建~」と“耳にタコ”な話です。

日本のマスメディアに登場する“せんもんか”と呼ばれている人間は、状況がどう変わろうとも同じ話しかしません。
いったい何の“せんもんか”なのでしょう?
ギャグのでしょうか?

2. Re:いつも有難うございます

>3saka 脳腫瘍、顔面麻痺、片耳になったが人生悪くないさん
どうも「せんもんか」はマクロのバランスの話をなぜかミクロで考えてしまっているのですが、その愚かしさにどうも本気で気付いていないようです。不思議ですね。

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